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Picasa 虹の契約「有責性の引き受けにおける優先権の請求」という考想は、レヴィナスにとっては倫理を基礎づける根本的考想であり、これは別の文脈では「選び」(élection)とも呼ばれる。「選び」とは何らかの特権や利得を優先的に獲得することを指すのではない。その逆に、人に先んじて苦しみ、人に先んじて罰を受けることを言うのである。 「選び」とは特権からではなく、有責性から構築されている(『困難な自由』,p.39) だから、「私」とは定義上そのつどすでに「選ばれた者」のことなのである。 「私」と名乗るものは、他の人々とは切り離されており、他の人々に対して責務を負っている。道徳性の根本的直観は、おそらく私は他者と等格ではないという覚知のうちにある。(・・・)私は他の人々に請求するより無限に多くを自分自身に対して請求する。(『困難な自由』,p.39) 倫理を基礎づけるのはこの「選び」の直観である。「私は特別の地位にあるという意識、選びの直観を抜きにしては、道徳的意識はありえない」(DL,p.39) 平等に基づいて平等を実現することは出来ない。「法理的公正」に基づいて「人間的公正」を実現することはできない。なぜなら、「平等なものたち」の間では、他人に先んじて有責性を引き受けることがそもそも原理的に許されないからである。「法理的公正」は、権益や利得の分配における不平等を正して、平等を回復することを目的とする。だから、そこでは、「盗んだのは誰か?簒奪したのは誰か?咎められるべきは誰か?」という「検察的」な問いが支配的な語法になる。それは正義を実現するものではあるが、倫理を基礎づけるものではない。 私と「他の人々」のどちらが世界の不正について有責であるのか、あるいは世界の不正から受益しているのか、といった「法理的公正」を基準とする議論をいくら積み重ねても、そこから「人間的公正」を導き出すことはできない。「人間的公正」を実現するためには「選び」の意識を持つ人間が登場しなければならないからである。自分は他の人々よりも多くの責務を負っているということを、比較軽量の手続き抜きで、「いきなり」(d'embélé)宣言する人間が登場しなければならない。このようにして先取される倫理的な「私」の複数形、おのれを「諸邦の民たちとは別の準位にある」(á part de tous les nations)民として集団的に宣言する「私たち」のことをレヴィナスは別の文脈では「イスラエル」と呼んでいる。 「イスラエル」とは歴史的事実というよりもむしろ道徳的カテゴリーである。(『困難な自由』,p.39) それは「歴史上のイスラエルの民」、経験的なイスラエルが、その語の正統的な意味で「イスラエル」的であったということを意味しない。重要なのは「道徳的カテゴリーとしてのイスラエル」があるからこそ、「歴史上のイスラエル」に対して「イスラエルは十分に『イスラエル的』であるだろうか?」という問いが根源的な批判として有効性を持ちうるのである。 世界に倫理をあらしめようと望むのであれば、この世界を人間が住むに耐える場所に造り直したいと望むのであれば、「諸国民」を前にして、「あなたがたに先んじて、私たちこそ世界でもっとも有責な民である」と宣言する道徳的カテゴリーが存在しなければならない。そのような「選ばれた民」が存在しなければならない。そうタルムードは教える。 タルムードの一節には「戒律なきユダヤ人は世界の厄災である」という言葉がある。 レヴィナスはそれをこう解釈する。 トーラーは世界でいちばん非情な民に与えられた。もしユダヤの民がトーラーを与えられなかったら、もしトーラーを失っていたら、世界のどの民もユダヤの民に抗することはできなかったであろう。(・・・)ユダヤの民はまるで岩にしがみついている木のようなものだ。なんという生命力!なんという繁殖力!それゆえにユダヤの民にトーラーは与えられたのである。炎のトーラー、それだけがこの世界を侵略する生命力を萎えさせることができたのである。(QLT,p.178) おのれを「世界の厄災」であると覚知するものが、世界に正義をもたらす起点になる。おのれを他の諸国民と同程度に有害で、同程度に凡庸な「普通の国」の国民である(あるいは、ありたい)と考えるような人々は――かりにその有責性の査定が客観的基準に照らして妥当であったとしても――決して世界に正義をもたらす起点になることはできない。 人間の世界が成立するためには――正義が、裁きの場が成り立つためには――他の人々に対する有責性をおのれ一人の身に引き受けることのできる誰かがいなければならない。(『タルムード四講話』,p.182) 自分が犯していない罪過についてさえ有責を感じることが「できる」という逆説的な機能のうちに主体性は棲まっている。これが主体性であり「善性」(bonté)である。 自分のなしたこと以上の責任を負うという、この有責性の過剰(débordement de la responsibilité)が生起する場所が宇宙のどこかにありうるということ、それがおそらく畢竟するところ、「私」の定義なのである。(『全体性と無限』,p.222) 人間の世界が成立するためにその有責性を引き受ける「誰か」。その「誰か」は任意の誰かではないし、全員の有責性の程度を考査した上で「おまえがそうだ」と指図されるわけではないし、いつかこの世界に到来するであろう救世主でもない。その「誰か」は「私」(あるいは「私たち」)と一人称を名乗りつつしか登場しないのである。 こうして、「私」以外のすべての人々は構造的に「主語」から、すなわち「選び」から、排除されていることになる。もちろん、このようにして「選び」から漏れるというのは、事実的な水準では少しも「不利」を意味するわけではない。 タルムードによれば、ユダヤ教徒は「来たるべき世界」にしかるべき地位を占めるために、三二六条の戒律を遵守することを求められる。しかし、異教徒はわずかに「虹の契約」の条項を守るだけで「来るべき世界」では篤信のユダヤ教徒と同じ地位に就くことができる。「選び」に洩れるとは、特権に預かる権利を失うのではなく、より多くの責任、より多くの拘束を負う機会を逸するということだからである。 しかし、それにもかかわらず、歴史が教えるところでは、諸国民はユダヤの民をその「選民思想」ゆえにはげしく憎んだ。「選び」から洩れたものは無傷ではいられない。有責性の請求権において「後からついてゆく」ことだけしか許されないとしたら、それが倫理的な「遅れ」を意味するとしたら、そのような扱いはその人の人間的尊厳を傷つけずにはいないだろう。 世界が住むに値する場所であるためには、誰かが「一歩先んじる」ことが必要である。そして「一歩先んじる」人がいれば必ず、「一歩先んじられた」人々がいる。彼らはたとえ事実的な水準で利得を得ようとも、道徳的な水準では遅れをとった人々である。それは必ずや「傷」として残る。誰かが負わなければならない「傷」であるとしても、誰かが傷つくことになる。 当格者たちと非当格者たちを一つに結びつけるためには、ある種の傷が必要だったし、今も必要なのである(『タルムード新五講話―神聖から聖潔へ』,p.182) 「前後に男女二つの顔を持つ」始原の人間の完全な平等性が「人間的公正」の名において崩されたとき、「男性」と「女性」のあいだには傷跡が、「深い傷跡が」残る。それが仮に人間の世界に倫理をもたらしきたすために必要な傷であったとしても、それが傷であることに変わりはない。そして、この傷の痛みを和らげ、傷を癒やすことが次なる人間的責務として倫理の日程にのぼってくるのである。 「人間的公正」を基礎づけるために、性間にもたらされた「時差」の傷を癒やすために開かれる新しい次元、それがエロスの次元である。 ラビ・シモン・ベン・メナシアはこう教えた。「主は肋骨から女を造られた」というテクストはこう解されねばならない。聖なるお方――そのお方は祝福されてあれ――はエバの髪を編み、アダムのもとに連れていった。(『タルムード新五講話―神聖から聖潔へ』,p.143) 髪はエバの「髪を編んだ」。世界最初のメーキャップ・アーチスト、最初のヘア・デザイナーは神であった。神は女のありのままの顔に手を加え、「うわべ」(apparence)を変えた。なぜそのような「いつわり」を神はみずからの手で工作したのか。 エロス的存在者は「光から逃れる」という根源的趨向性を帯びている。「光から逃れる」とは、「光のうちですみずみまで見て取る」というテオリア的志向作用とは「別の仕方で」他者に接近することである。エバの髪を編み、化粧を施すことで、神はいわばエバの「顔を隠した」。というのも、ここで最初の男女の出会いにおいて果たされるべきことは、「観想された対象」のテオリア的な志向ではないからである。ここに生起するのは「欲望」である。あらゆる欲望は「欲望されたものについての欲望」であり、このとき「めざされているものは観想された対象ではない」。 アダムがエバの顔を見るときになすべきことは、エバを押しのけて、神に向かって、「私はここにいます」と有責性の優先権を請求することではない。男女が向かい合うときに生成するのは、そのように「直截」な私と他者の「顔」の対面的事況ではなく、「顔」を見合わせるという倫理的事況そのものを起動させる、それよりさらに始原的な、さらに根源的な出会いである。この出会いのうちに、「この世界を私たちが住める世界に作りなしたい」という根源的な「熱」と「柔和さ」が生成する。だから男女の対面それ自体は「顔と顔を見合わせる」倫理的事況ではなく、むしろ前-倫理的な、倫理の起源のあるべき事況なのである。 女性の顔には、性間の関係には、相貌を偽ることへの要請が、顔と顔を見合わせる荒々しい直截性を鎮静しようとすることへの訴求が存在する。というのは顔と顔を見合わせる直截性とは、一方の他方に対する有責性を通じて互いに出会う人間存在間の関係だからである。(『タルムード新五講話―神聖から聖潔へ』,p.143) 私が他者の「顔」に出会うという根源的な形式をさらに基礎づけるようなこのエロス的な出会い。それをレヴィナスは端的に「顔の彼方」(au-del du visage)と名付ける。 (内田樹「レヴィナスと愛の現象学」文春文庫、2011年、314-322頁)
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虹の契約「有責性の引き受けにおける優先権の請求」という考想は、レヴィナスにとっては倫理を基礎づける根本的考想であり、これは別の文脈では「選び」(élection)とも呼ばれる。「選び」とは何らかの特権や利得を優先的に獲得することを指すのではない。その逆に、人に先んじて苦しみ、人に先んじて罰を受けることを言うのである。 「選び」とは特権からではなく、有責性から構築されている(『困難な自由』,p.39) だから、「私」とは定義上そのつどすでに「選ばれた者」のことなのである。 「私」と名乗るものは、他の人々とは切り離されており、他の人々に対して責務を負っている。道徳性の根本的直観は、おそらく私は他者と等格ではないという覚知のうちにある。(・・・)私は他の人々に請求するより無限に多くを自分自身に対して請求する。(『困難な自由』,p.39) 倫理を基礎づけるのはこの「選び」の直観である。「私は特別の地位にあるという意識、選びの直観を抜きにしては、道徳的意識はありえない」(DL,p.39) 平等に基づいて平等を実現することは出来ない。「法理的公正」に基づいて「人間的公正」を実現することはできない。なぜなら、「平等なものたち」の間では、他人に先んじて有責性を引き受けることがそもそも原理的に許されないからである。「法理的公正」は、権益や利得の分配における不平等を正して、平等を回復することを目的とする。だから、そこでは、「盗んだのは誰か?簒奪したのは誰か?咎められるべきは誰か?」という「検察的」な問いが支配的な語法になる。それは正義を実現するものではあるが、倫理を基礎づけるものではない。 私と「他の人々」のどちらが世界の不正について有責であるのか、あるいは世界の不正から受益しているのか、といった「法理的公正」を基準とする議論をいくら積み重ねても、そこから「人間的公正」を導き出すことはできない。「人間的公正」を実現するためには「選び」の意識を持つ人間が登場しなければならないからである。自分は他の人々よりも多くの責務を負っているということを、比較軽量の手続き抜きで、「いきなり」(d'embélé)宣言する人間が登場しなければならない。このようにして先取される倫理的な「私」の複数形、おのれを「諸邦の民たちとは別の準位にある」(á part de tous les nations)民として集団的に宣言する「私たち」のことをレヴィナスは別の文脈では「イスラエル」と呼んでいる。 「イスラエル」とは歴史的事実というよりもむしろ道徳的カテゴリーである。(『困難な自由』,p.39) それは「歴史上のイスラエルの民」、経験的なイスラエルが、その語の正統的な意味で「イスラエル」的であったということを意味しない。重要なのは「道徳的カテゴリーとしてのイスラエル」があるからこそ、「歴史上のイスラエル」に対して「イスラエルは十分に『イスラエル的』であるだろうか?」という問いが根源的な批判として有効性を持ちうるのである。 世界に倫理をあらしめようと望むのであれば、この世界を人間が住むに耐える場所に造り直したいと望むのであれば、「諸国民」を前にして、「あなたがたに先んじて、私たちこそ世界でもっとも有責な民である」と宣言する道徳的カテゴリーが存在しなければならない。そのような「選ばれた民」が存在しなければならない。そうタルムードは教える。 タルムードの一節には「戒律なきユダヤ人は世界の厄災である」という言葉がある。 レヴィナスはそれをこう解釈する。 トーラーは世界でいちばん非情な民に与えられた。もしユダヤの民がトーラーを与えられなかったら、もしトーラーを失っていたら、世界のどの民もユダヤの民に抗することはできなかったであろう。(・・・)ユダヤの民はまるで岩にしがみついている木のようなものだ。なんという生命力!なんという繁殖力!それゆえにユダヤの民にトーラーは与えられたのである。炎のトーラー、それだけがこの世界を侵略する生命力を萎えさせることができたのである。(QLT,p.178) おのれを「世界の厄災」であると覚知するものが、世界に正義をもたらす起点になる。おのれを他の諸国民と同程度に有害で、同程度に凡庸な「普通の国」の国民である(あるいは、ありたい)と考えるような人々は――かりにその有責性の査定が客観的基準に照らして妥当であったとしても――決して世界に正義をもたらす起点になることはできない。 人間の世界が成立するためには――正義が、裁きの場が成り立つためには――他の人々に対する有責性をおのれ一人の身に引き受けることのできる誰かがいなければならない。(『タルムード四講話』,p.182) 自分が犯していない罪過についてさえ有責を感じることが「できる」という逆説的な機能のうちに主体性は棲まっている。これが主体性であり「善性」(bonté)である。 自分のなしたこと以上の責任を負うという、この有責性の過剰(débordement de la responsibilité)が生起する場所が宇宙のどこかにありうるということ、それがおそらく畢竟するところ、「私」の定義なのである。(『全体性と無限』,p.222) 人間の世界が成立するためにその有責性を引き受ける「誰か」。その「誰か」は任意の誰かではないし、全員の有責性の程度を考査した上で「おまえがそうだ」と指図されるわけではないし、いつかこの世界に到来するであろう救世主でもない。その「誰か」は「私」(あるいは「私たち」)と一人称を名乗りつつしか登場しないのである。 こうして、「私」以外のすべての人々は構造的に「主語」から、すなわち「選び」から、排除されていることになる。もちろん、このようにして「選び」から漏れるというのは、事実的な水準では少しも「不利」を意味するわけではない。 タルムードによれば、ユダヤ教徒は「来たるべき世界」にしかるべき地位を占めるために、三二六条の戒律を遵守することを求められる。しかし、異教徒はわずかに「虹の契約」の条項を守るだけで「来るべき世界」では篤信のユダヤ教徒と同じ地位に就くことができる。「選び」に洩れるとは、特権に預かる権利を失うのではなく、より多くの責任、より多くの拘束を負う機会を逸するということだからである。 しかし、それにもかかわらず、歴史が教えるところでは、諸国民はユダヤの民をその「選民思想」ゆえにはげしく憎んだ。「選び」から洩れたものは無傷ではいられない。有責性の請求権において「後からついてゆく」ことだけしか許されないとしたら、それが倫理的な「遅れ」を意味するとしたら、そのような扱いはその人の人間的尊厳を傷つけずにはいないだろう。 世界が住むに値する場所であるためには、誰かが「一歩先んじる」ことが必要である。そして「一歩先んじる」人がいれば必ず、「一歩先んじられた」人々がいる。彼らはたとえ事実的な水準で利得を得ようとも、道徳的な水準では遅れをとった人々である。それは必ずや「傷」として残る。誰かが負わなければならない「傷」であるとしても、誰かが傷つくことになる。 当格者たちと非当格者たちを一つに結びつけるためには、ある種の傷が必要だったし、今も必要なのである(『タルムード新五講話―神聖から聖潔へ』,p.182) 「前後に男女二つの顔を持つ」始原の人間の完全な平等性が「人間的公正」の名において崩されたとき、「男性」と「女性」のあいだには傷跡が、「深い傷跡が」残る。それが仮に人間の世界に倫理をもたらしきたすために必要な傷であったとしても、それが傷であることに変わりはない。そして、この傷の痛みを和らげ、傷を癒やすことが次なる人間的責務として倫理の日程にのぼってくるのである。 「人間的公正」を基礎づけるために、性間にもたらされた「時差」の傷を癒やすために開かれる新しい次元、それがエロスの次元である。 ラビ・シモン・ベン・メナシアはこう教えた。「主は肋骨から女を造られた」というテクストはこう解されねばならない。聖なるお方――そのお方は祝福されてあれ――はエバの髪を編み、アダムのもとに連れていった。(『タルムード新五講話―神聖から聖潔へ』,p.143) 髪はエバの「髪を編んだ」。世界最初のメーキャップ・アーチスト、最初のヘア・デザイナーは神であった。神は女のありのままの顔に手を加え、「うわべ」(apparence)を変えた。なぜそのような「いつわり」を神はみずからの手で工作したのか。 エロス的存在者は「光から逃れる」という根源的趨向性を帯びている。「光から逃れる」とは、「光のうちですみずみまで見て取る」というテオリア的志向作用とは「別の仕方で」他者に接近することである。エバの髪を編み、化粧を施すことで、神はいわばエバの「顔を隠した」。というのも、ここで最初の男女の出会いにおいて果たされるべきことは、「観想された対象」のテオリア的な志向ではないからである。ここに生起するのは「欲望」である。あらゆる欲望は「欲望されたものについての欲望」であり、このとき「めざされているものは観想された対象ではない」。 アダムがエバの顔を見るときになすべきことは、エバを押しのけて、神に向かって、「私はここにいます」と有責性の優先権を請求することではない。男女が向かい合うときに生成するのは、そのように「直截」な私と他者の「顔」の対面的事況ではなく、「顔」を見合わせるという倫理的事況そのものを起動させる、それよりさらに始原的な、さらに根源的な出会いである。この出会いのうちに、「この世界を私たちが住める世界に作りなしたい」という根源的な「熱」と「柔和さ」が生成する。だから男女の対面それ自体は「顔と顔を見合わせる」倫理的事況ではなく、むしろ前-倫理的な、倫理の起源のあるべき事況なのである。 女性の顔には、性間の関係には、相貌を偽ることへの要請が、顔と顔を見合わせる荒々しい直截性を鎮静しようとすることへの訴求が存在する。というのは顔と顔を見合わせる直截性とは、一方の他方に対する有責性を通じて互いに出会う人間存在間の関係だからである。(『タルムード新五講話―神聖から聖潔へ』,p.143) 私が他者の「顔」に出会うという根源的な形式をさらに基礎づけるようなこのエロス的な出会い。それをレヴィナスは端的に「顔の彼方」(au-del du visage)と名付ける。 (内田樹「レヴィナスと愛の現象学」文春文庫、2011年、314-322頁)
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